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◆論評:第16回(2004年度)

【受賞者】 落合雄彦

【受賞対象業績】 「マコタン島小論―19世紀アフリカ西海岸におけるある小島の使用・所有・領有をめぐる動態」『敬愛大学国際研究』第10号,95-127頁,2002年。第11号,105-131頁,2003年。

【講評】
  本論文は現在のシエラレオネ沿岸部にある小島マタコン島の使用・所有・領有を巡る地元首長,商人,植民地政府,本国政府の駆け引きを丹念に追うことにより,植民地化の過程で見られた,諸権利の錯綜した動態を明らかにした労作である。
  著者は,バーミンガム大学の図書館に所蔵されていた「マタコン島(西アフリカ)ペーパーズ」を丹念に調査することにより,嘗てノーザン・リヴァースと呼ばれた西アフリカ沿岸地域にあるマタコン島の19世紀以降の使用・所有・領有の変転過程を明らかにした。
  同島の使用・所有・領有関係は,19世紀初頭のイギリス商人と地元首長との賃貸借契約の締結に始まり,その後二転三転する。英仏の商人,軍隊,植民地政府,本国政府といった様々な担い手(アクター)がそれぞれの立場からこの問題に関与してきた。1826年の条約によるシエラレオン植民地への組み入れ,「小イギリス主義」によるイギリス本国政府の消極的姿勢,現地イギリス商人の政府への働きかけ,フランス人の進出,英仏本国政府間の協議,そしてフランス部隊による軍事的占領といった具合である。
  19世紀末になり同島が交易拠点としての競争力を失う中で,同島の使用,所有,領有を巡るこれらの顛末は歴史の中に埋もれてしまうことになったが,本論文はこのような諸権利を巡る混乱や錯綜した関係を掘り起こすことによって,19世紀末のアフリカ分割の歴史をより正確に描き出す事に成功したといえる。著者は,このような錯綜した過程は他の地域でも見られた可能性があることを示唆して,「歴史」から抜け落ちた歴史の再構築の必要性を主張している。
  本論文は,英文資料の丹念な吟味により,ミクロな地域レベルでの諸アクターの思惑や行動を,マクロな国際政治レベルでの大局的交渉過程との関連づけて捉え直し,歴史を動態的に描きだすことに成功し,我が国における西アフリカの植民地史研究に著しい貢献をなすものと言える。よって本委員会は,本論文を研究奨励賞候補論文として推挙するものである。

【受賞者】 椎野若菜

【受賞対象業績】 「『寡婦相続』再考―夫なきあとの社会制度をめぐる人類学的用語」『社会人類学年報』第29号, 107-134頁,2003年。(審査参考論文「寡婦が男を選ぶとき―ケニア・ルオ村落における代理夫選択の実践」『アフリカ研究』第59号,71-84頁,2001年。)

【講評】
  主論文は,(主にアフリカの)父系社会での寡婦の生活実践と社会制度を(候補者が参与観察で捉えた)豊かな広がりと深さをもって研究するには,人類学の用語の整理が必要だとといて,実際に試みた。参考論文は,ケニアのルオ社会の「代理夫」関係の実態を寡婦,亡夫の近親・親族,代理夫とその家族関係の中で,特に寡婦の思惑と選択に注目して記述する。主論文に具体的な裏付を与える民族誌的成果として,参照に十分値する。
  主論文が提起した課題と視点は,研究の一層大きな展開を期待させ,また参考論文の記述はその基盤となる参与観察への資質を示している。結論として,主論文には幾分の不満があるが,両論文に窺える可能性を奨励する意味で,受賞が適当であると判断した。
  候補者は,一夫多妻制社会の女性が(ルオ社会では,平均20-30年の)長い後半生を代理夫と共にする事実から,問題の一般的性格を指摘する。また,寡婦とその子供たちへの社会の対処法から,死や葬送の観念,結婚の意味,親子関係で基軸をなす要素とそれらへの人々の思いなどへと考察が広がっていくと,研究の見通しを述べている。
  この視点から,人類学者たちがレヴィレート(的結合),寡婦相続,内縁関係,再婚などの用語で寡婦に関する社会制度をどう捉えてきたか,整理した。その結果,それらは氏族の権利や寡婦と彼女の子供たちの福祉を焦点としていて,多面的で複合的な制度と慣行の多様な実践形態に触れていないという。そして,「隠蔽」されてきた寡婦の主体的な実践の面から新たな展望を開く,自分なりの対案を提示した。参与観察による疑問から,こうした大きな課題に積極果敢に取り組んだ意欲を,何よりも高く評価しておきたい。
  ただし理論的な主論文は,(ルオの)寡婦の実践を直に論述してはいない。一方,参考論文は,大きな鉱脈を掘り当てて記述しながら,その分析と考察は対象の豊かさを十分に引き出してはいない。主論文は参考論文の記述を十分に活かすべきだっただろう。
  奨励賞という本章の性格に鑑みて,あえて幾つかの問題点を挙げておきたい。まず,先行業績の読み込みと理解にやや不満が残る。また,学説史の理論的な比較検討には,不十分な面がある。これらの点は,従来の用語を一覧的に整理して自らの新たな提案も盛り込んだ,主論文の表3に端的に現れている。例えば,候補者は「C寡婦との内縁関係」の位置づけの項で,エヴァンズ=プリチャードのこの概念での(寡婦の)「新パートナーの社会的属性」は,「亡夫の(類別的)兄弟又はよそ者」であるとする。だが氏族社会では,「亡夫の(類別的)兄弟」が寡婦と性関係をもてば,ほとんどの場合内縁関係とは見なされない。さらに内縁関係は,寡婦にも関係しながら,より大きな概念として寡婦をめぐる制度・慣行全体の外側に位置しているといえよう。慎重で徹底した再吟味を促したい。
  用語の混乱を指摘する場合にも,幾分カテゴリカルに過ぎる面が見られる。例えば,「寡婦を動産とみなす」「用語の安易な使用」を咎めて,「地位の継承(succession)と財産の相続(inheritance)」の厳密な区別の必要性を説く。だが人類学の記述では,まず何よりも当事者自身の観点や解釈を深く追求しなければならない。候補者は,キプシギス社会で女性婚が女性自身に肯定的に再解釈されているという小馬の報告を,「流用」の一例として挙げる。こうした「流用」状況は,キプシギスの「寡婦相続」(内容は,分析的にはレヴィレート的結合)にも妥当するが,まさに「相続」(kiindi)と呼ばれているのだ。翻って,現象の記述と分析に用いる英語のinheritanceが或る時代までは地位と財産を区別せずに使われたという事情にも一応の注意を向けておくべきだろう。
  流用や接合を論じるには,それを強いる権力と言説の構造の冷静な認識が前提となる。(寡婦をめぐる)生活実践を奥行き豊かに語るには,その制度的側面を軽視してはならない。カウンター・ナラティヴにこそ,歴史的な想像力と綿密な事実認識が不可欠なのだ。
  こうした若干の問題はあるものの,審査員一同,候補者の若々しい問題意識と大胆な立論の努力を重く受け止めて,高い評価を与え,研究の一層の発展を奨励したい。

【受賞者】 高田明

【受賞対象業績】 「統一タイトル―サン(ブッシュマン)における社会的相互行為の発達および文化変容に関する人類学的考察」

【講評】
  本業績は,以下の3つの論文で構成される。論文l 「サンにおける養育行動とその発達的意義―ジムナスティック・授乳場面の特徴」『発達心理学研究』第13巻第1号,63-77頁,2002年;論文2 「子供の発達と文化―心理学と人類学」『子供の発達心理学を学ぶ人のために』(吉田直子・片岡基明[編])世界思想社,208-231頁,2003年;論文3 「セントラル・カラハリ・サンにおける社会変容―人口動態,生業活動,乳幼児の体重の分析から」『アフリカ研究』第60号,85-103頁,2002 年。
  高田明氏のナミビアとボツワナのサン(ブッシュマン)を対象とした研究は,従来の先行研究をひろく比較検討しながら,綿密なフィールドワークを行っている。フィールドにおいては,サンの「日常の場面」で「具体的に」とらえ得る事象を測定・観察することに徹し,そこから得られた資料を詳細に分析することにより,氏のテーマであるサンの養育行動,社会変容,文化論を明らかにするというその視点や方法論は高く評価されるものである。次に,提出された3論文について論評を加える。
  論文1:本論文はサンの一つの言語グループであるクンを対象に,乳児に対する養育行動の一つである「ジムナスティック(膝の上で抱え上げ,立位を保持,あるいは上下運動させる一連の行動)」と授乳の関係を観察し,そこから得られた資料の詳しい分析から,その発達的意義について考察している。サンにおけるジムナスティックは移動生活との関連で歩行行動を引き出す「訓練」であるとされてきたのに対し,高田氏は定住化がすすんだクンでは「あやし」行動としての意味が強いことを明らかにし,文化的視点を取り入れることの重要性を指摘している。また,「ジグリング(乳児を抱いた状態で乳児または乳房を優しくゆする行動)」についても文化の影響を受けた多様な養育行動の一つであることを示唆している。このような養育行動を文化の多様性との関連で考察することにより,従来の定説や普遍的解釈に一石を投じているといえよう。
  論文2:本論文は,子どもの発達に関して,ホワイティング夫妻の「6文化プロジェクト」をはじめとする心理学と人類学の交差した研究を紹介している。次に高田氏はこの「6文化プロジェクト」の対象社会が農村と都市に限られているなど問題点を指摘しながら,氏自身のサンの養育行動の研究から,「サンにおける養育者―子どもの間の相互行為が英米とは異なる特徴をもつこと,またそうした特徴は狩猟採集に基づく伝統的な生活様式によると考えられてきた」ことを示している。さらに,「養育者―子どもの間の相互行為は,文化的文脈を背景にもつとともに,文化が実践あるいは再創造される場となっている」という氏の指摘は大変,示唆に富むものである。人類学における「文化」と心理学における「発達」を結びつけたすぐれた論文である。
  論文3:本論文において,高田氏は,1997年の再定住化政策によるセントラル・カラハリ・サンとよばれる2つのグループ,グイとガナの社会変容について考察している。氏は再定住化後の人口動態,生業活動,乳幼児の体重という3つの側面について観測・観察し,その分析から,人口密度の急激な上昇,自然環境の荒廃,育児様式の多様化,人々の「民族」に対する帰属意識の再編成など,変容しつつあるサン社会の実態を見事に描き出している。さらに,氏は乳幼児の育児様式や子どもの社会化を研究の射程に入れることで,今後の文化変容の研究に新たな方向性をあたえたといえる。
  以上,審査した結果,高田明氏の研究は高く評価されるものであり,第16回日本アフリカ学会研究奨励賞受賞に値すると判断される。

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