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◆論評:第20回(2008年度)

【受賞者】 阿部利洋

【受賞対象業績】 『紛争後社会と向き合う一南アフリカ真実和解委員会』京都大学学術出版会,2007 年。

【講評】
  阿部利洋氏の『紛争後社会と向き合う一南アフリカ真実和解委員会―』は,京都大学に提出した博士論文に加筆訂正して出版された著作である。南アフリカの真実和解委員会(TRC)についてはすでに多くの出版物があるが,本書はこのTRCの活動内容や成果,和解の理念,およびその批判等を丹念に論じており,記述の豊かさと分析の的確さにおいて他に類を見ない著作である。
  本書は,まずアパルトヘイトの成立と終焉までの過程を追い,1994年に誕生したマンデラ政権が和解を打ち出したのはなぜかを説明する。第2章ではTRCの活動に焦点を当て,それがどのような理念の下で活動し,当事者たちはどのような思いをもってそれに臨み,そこから何を引き出したのかをたどる。詳細な証言等に依拠したこの部分は本書のもっとも成功した部分であり,読者は大きな感動を受けるであろう。第3章では和解の概念の社会的および宗教的な文脈をあとづけ,第4章でその効果について理論的な解釈を試みている。
  東西冷戦の終結後,アフリカを含む世界各地で紛争が多発しており,紛争によって二分されていた社会がどのようにして過去を「克服」し,国民合意を打ち立てることができるかということは,きわめて今日的かつ切実な課題になっている。その意味で,数十年に渡って暴力のつづいた南アフリカで実施された和解の試みを忠実に跡づけた本書は,南アフリカだけでなく,他の地域の研究者にとっても有意義なものであろう。もっとも和解という概念に対しては,正義を追求しないがゆえに問題の隠ぺいにすぎないとの批判もある。しかし著者は,和解という概念そのものの可否ではなく,和解を社会的目標に掲げることで社会が何を実現できたかを重視すべきだとする。この結論は,著者が丹念に事実の経過を追い,対象と格闘する中から引き出しているがゆえに説得的である。
  一国の事例から出発しつつも,紛争後社会の再建という普遍的な課題に応えた書として,また事例研究に基づきながら真摯な理論化を試みた書として,わが国のアフリカ研究にとってきわめて大きな意義をもつ著作であり,出版を心から喜びたい。

【受賞者】 舩田クラーセンさやか

【受賞対象業績】 『モザンビーク解放闘争史―「統一」と「分裂」の起源を求めて』御茶の水書房,2007 年。

【講評】
  舩田クラーセンさやか氏の『モザンビーク解放闘争史―「統一」と「分裂」の起源を求めて』は,津田塾大学に提出した博士論文に加筆訂正して出版された著作である。全部で700ページ近い大著であり,しかもわが国で研究蓄積の少ないモザンビークの独立闘争とその直後にはじまった内戦の過程を約1世紀に渡ってたどった,類を見ない労作である。
  「アフリカ独立の年」といわれた1960年前後に,旧イギリス,フランス領の国々は独立を果たした。しかし,第二次世界大戦前の制度を引きずるポルトガルは植民地を解放せず,モザンビークを含む国々は長期にわたる独立闘争を余儀なくされた。本書は,まずポルトガルによるモザンビーク支配の実態を描くことからはじめ,ついで解放運動の主体となったフレリモの闘争を描き出す。この部分は,ポルトガルの文書館等に存在する大量の史料を踏まえることで「厚い記述」を実現しているだけでなく,南アフリカやボツワナ,タンザニアなどとの間の国際関係のダイナミズムを十分に踏まえた,読み応えのある部分である。やがてモザンビークは1975年に独立し,国民主体の「統一」国家の樹立をめざすが,直後の1977年に内戦が勃発して国内が分断される。「統一」をめざした新国家がなぜ「分裂」にいたったかを,モザンビークのー地方での丹念な聞き書き調査を通じて追うことが,本書の後半の課題である。
  わが国のアフリカ史研究の低迷がいわれて久しいが,その中で本書は,多くの史料を丹念にたどるだけでなく,現地でのフィールド調査も踏まえることで,モザンビークのこの百年の歴史を見事に描き出している。しかも本書は,国際関係学をはじめ,アフリカ史学,社会人類学,地域研究などの諸学の方法を縦横に駆使することで,アフリカ史研究に新たな可能性を切り開いている。本書はモザンビーク史研究のみならず,アフリカ史研究の分野で実現された金字塔的著作であり,このような重要な仕事が30代の若手研究者の手で実現されたことを祝福したい。

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