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◆論評:第21回(2009年度)

【受賞者】 松本尚之

【受賞対象業績】『アフリカの王を生み出す人々―ポスト植民地時代の「首長位の復活」と非集権制社会―』明石書店,2008 年。

【講評】
  本書は,ナイジェリアのイボ社会において現在「エゼ」あるいは「チーフ」と呼ばれている「伝統的」権威者たちをめぐる人類学的研究である。歴史的にみればこの権威者の地位は植民地時代につくられた裁判員制度と深く結びついている。しかしながらイボ人たちは,植民地時代に押しつけられた制度をみずからのなかに取り込み,それを主体的に読み替えることをとおして現在の権威者たちを創造してきた。そしてこの権威者は,国家と人々を「つなぐ者」として機能しているだけではなく,都市への移住者と農村共同体のあいだや他地域出身者と共同体のあいだ,すなわち広い意味での「外の世界」と人々を「つなぐ者」としての役割を果たしている。この権威者は,国家とイボの人々の両方から「伝統的」権威者として正当性を与えられているが,その伝統とは,過去の状態の保存や再現ではなく,人々が激動する現代世界のなかに自分たちを位置づけなおす絶え間ない過程から生起するものであることを,本書は豊富な事例にもとづいて説得的に論じている。
  本書は,民族社会と植民地政府および独立国家との歴史的な関係をふまえて,ナイジェリアの歴史的変遷の全体像と,現代の人々の生き方を鮮明に描き出すことに成功している。また,植民地支配当局にとっての「イボ人」・沿岸部住民にとっての「イボ人」・脱植民地期の「イボ人」,植民地期の法制度の中の「首長」・脱植民地期の「首長」・研究者の用語としての「首長」など,自称と他称が錯綜し,さらに時代と主体ごとに意味内容が変化する様子を,ていねいかつ的確な定義づけと緻密な書き分けによって明快に描き出している。さらに,先行研究を綿密に検討しながら詳細な批判を加えている点や,人類学にとどまらずに政治学などの他分野との交錯によって多面的な分析をおこなっている点でも,本書は意欲的で卓抜な作品である。
  以上のように本書は,特定民族の人類学的な研究にとどまらず,ナイジェリア研究やアフリカ研究にとっても重要な貢献であると高く評価することができ,まさに「奨励賞」にふさわしい著作であると判断した。

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