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◆論評:第22回(2010年度)

【受賞者】 飯田卓

【受賞対象業績】 『海を生きる技術と知識の民族誌―マダガスカル漁撈社会の生態人類学』世界思想社,2008年。

【講評】
  本書は,マダガスカルの漁民を対象とした緻密な実証研究に基づく民族誌である。具体的には,1990年代に自由主義経済を導入したマダガスカル共和国で小規模漁業をおこなうヴェズ漁民の生活実態を記述しながら,国際経済や国家経済が漁民の生活に与えた影響,漁民が海と向き合うなかで蓄積された伝統が活性化する様子,それによって生じた漁法の革新などが考察されている。
  本書の研究史上の意義は,次の3点に集約されるだろう。まず挙げられるのは,考察の枠組である。氏は,従来の水産学的な資源管理論や「在来的管理」を活用した資源管理論とは異なり,「無形の資本」なる概念を導入した。一般に資源管理の議論は,「漁場」と「収入」という有形の財に関する二者択一として描かれる。しかし本書では,ローカルな社会に内在する技術や知識からなる「無形の資本」を介在させることで,一見不可解な現地の人びとの選択や判断を理解する道を開いた。このことは,生態人類学や資源管理論における前進というだけでなく,開発に際してこれまで何度も失敗してきたローカルの反応の見極めにも資するものといえる。2点目は,ローカルな社会変容をグローバルな社会との関係で考察したことにある。氏が導き出した知見の普遍化・共有化を期待させる広がりがそこに見られる。3点目に,農業・牧畜・狩猟採集に重点が置かれてきたこれまでのアフリカ研究の守備範囲を広げ,より包括的なアフリカ地域理解に貢献したことが挙げられる。
  さらに内在的視点から外部者の介入を批判的に考察し,世代を超えて蓄積されてきた無形の資本が,漁民たちの適応力や潜在力を高めるという本書の結論は,地域を超えて検証さるべき重要なモデルを提示しており,今後の研究の深化と広がりを大いに期待させる意欲的業績であり,奨励賞に価すると判断した。

【受賞者】 佐藤千鶴子
【受賞対象業績】 『南アフリカの土地改革』日本経済評論社,2009年。

【講評】
  本書は,ポスト・アパルトヘイト時代の南アフリカの土地改革をテーマとしている。人口の圧倒的多数を占めるアフリカ人が土地を奪われ,狭いホームランドでの居住を強制された社会的不正義の是正と密接に結びついた土地改革は,ANC政権が掲げた最優先課題のひとつだった。その土地改革がいかに進展し,その成果がどのように評価できるのかという問いに答えることは,土地改革の政策的評価だけでなく,アパルトヘイト廃絶後の南アフリカの政治を評価し,今後を考えるために不可欠の作業である。氏は,アフリカ人農村社会研究の整理を行なった上で,南アフリカの土地問題の歴史的形成と抵抗運動を紐解き,各時代における土地政策の背景や土地改革の全体像を提示し,さらに,3つの地域での具体的な土地改革の成果についてインタビューを交えて実証的に検証している。
  本書の研究成果は,次の3点を解明したことに集約できる。まずは,土地改革の原動力としてローカル・コミュニティが大きな役割を果たしたこと,2点目は,土地改革が人種間の融和に貢献したこと,3点目に,しかし,一方で土地改革が新興農民創出には十分寄与しなかったこと,である。こうした成果は,現時点での土地改革への評価となっており,それは未来に向けての展望を開く扉となっている。
  テーマの重要性とその広がりならびに文献・資料だけでなく,現地でのフィールド調査に基づいて議論を構築しようとする研究方法も多元的なアプローチをめざす地域研究の手法にふさわしく,今後の研究の展開に大いに期待し,奨励賞に推薦することに決定した。

 

 

 

 

 

 

 

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