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◆論評:第23回(2011年度)

【受賞者】 丸山淳子

【受賞対象業績】 『変化を生きぬくブッシュマン―開発政策と先住民運動のはざまで』世界思想社,2010年。

【講評】
  本書は,アフリカ南部,ボツワナ共和国に暮らすブッシュマンを対象とした国家政策としての強制移住の顛末をめぐる貴重な人類学的研究である。ブッシュマンは狩猟採集という自然につよく依存した生業形態と平等主義などの価値観によってよく知られた民族である。彼らの伝統的な狩猟採集生活については,1950年代から日本をはじめ欧米の人類学者による長い研究の歴史がある。一方,ボツワナ共和国政府は,1970年代半ばからブッシュマンを主たる対象として「遠隔地開発政策」を開始し,彼らの生活改善と並んで国民国家への統合を推進することにした。1997年には,長年住み慣れてきた居住地から別の再定住地への強制的移住が実施された。再定住地では,それまでの生活とはまったく異なった状況が存在し,それらの多くは伝統的な生活に齟齬を来すものであった。その困難な状況に対してブッシュマンはどのように対処し,「ポスト狩猟採集社会」への移行をなしとげたのか。丸山淳子氏は精力的なフィールドワークと文献資料の精査により,再定住地におけるブッシュマンの主体的取り組みのようすを綿密に,冷静に,そしてするどい洞察力をもって描き出している。
  少数民族と現代の国家政策との関わりについては,世界中で問題となっているが,そこにはつねに開発・発展か伝統の保存,遵守かというジレンマがつきまとっている。それはまた,国民国家の形成と先住民運動,グローバリゼーションと地域主義との尽きることのない論争と相克の舞台でもある。丸山氏の大きな業績は,現実のブッシュマンたちの日常生活をベースにした生活者の視点から,そのような二律背反思考の迷宮を見事に打破し,少数民族と現代社会・国家との関係のあり方の新しい可能性を明らかにしたことである。再定住地でのブッシュマンの日々の生き様に丸山氏が見出したのは開発の「理想のモデル」でも先住民の「悲惨な状況」でもなく,開発による近代的恩恵と伝統的価値を二つながら維持する「美しい暮らし」を享受しようと,主体的にさまざまな工夫を重ねている姿であった。ブッシュマンにとってのあるべき生活,取り戻したい生活とは,昔ながらの狩猟採集生活でもなく,あるいは伝統と切断された国民的生活でもない。時代が用意したそのどちらの道も,自分の思いに沿って選択し,自在に組み合わせて望まれる生を実現できる自立した生活なのである。それはまさに伝統的生活以来のブッシュマン的生き方にほかならないだろう。この結論は,プッシュマンの問題を超えて,現代人すべてが抱えるべき課題へと飛翔すべきものかもしれない。
  本書は,諸先達たちの長年にわたる厚く詳細な人類学的蓄積をベースにしながら,著者天性の優れた行動力と人間性を存分に生かし,ブッシュマンとともに悩み考えて,国家と民族との関係に正面から切り込んだ挑戦的力作である。結果としてアフリカの地域的問題からグローバルな展望を創出している。全篇にわたって平易闊達でみずみずしい文章が心地よい。フィールドでの描写には躍動感があふれている。これからの著者のおおきな飛躍をはっきりと確信させる,奨励賞にふさわしい作品である。

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