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◆論評:第26回(2014年度)

【受賞者】 佐久間寛

【受賞対象業績】 『ガーロコイレ―ニジェール西部農村社会をめぐるモラルと叛乱の民族誌』平凡社,2013年。

【講評】
  佐久間さんのこのたびの受賞対象となった業績は,ニジェール川流域の小農村の19世紀末から21世紀初頭にいたる歴史民族誌として,また社会の変容と調査者としての自己の意識を動態的に描く実験的民族誌としてきわめて優れたものであり日本のアフリカ研究の蓄積の中で,今後も大きな影響力を発揮する可能性を確信させる労作です。
  佐久間さんの業績の卓越している点は以下の2点としてまとめることができます。第一は,現代の社会理論の最前線で議論されている理論的課題を,精密で微細なフィールドの記録や語り,そして人々の生の経験の徹底した分析にもとづいてあたかもミステリーの謎解きのように鮮やかに解き明かすことに成功している点です。行政村の分裂という一つの「事象」を詳細に描き出すことを通して,モダニティとコロニアリティという大上段の議論だけでなく,自己主体情動というミクロ人類学の視座まで射程にいれて議論を展開させます。土地をめぐって親族構造,所有観念,道徳規範などが複雑に入れ子状になりながら生成変容する過程を,先行研究の緻密な読解と批判的検討を下敷きに考察していく様子は,まさに圧巻の仕事といってよいでしょう。
  佐久間さんの研究の第二の卓越点は,その方法論および表現法(文体)にあります。佐久間さんが採用した徹底した先行研究クリティークの上にたった現地の人々の経験や記憶についての語りの重用自身は,人類学におけるフィールド調査法として馴染み深いものですが,佐久間さんは,こうした語り(とりわけ土地の所有をめぐるモラルに着目した語り)を平板な証言としてではなく,それらを幾重にも重ね合わせて重層的な語りの世界を提示しています。審査委員の一人が,講評のなかで「先行研究の詳細な批判的分析と自身の収集した一次資料とを接続させ,それをメスでえぐるようにして隠された部分を明るみにだしてゆくプロセスは,ほとんど名探偵ポワロの捜査のようである」と感嘆したことは決して誇張した表現ではありません。またこうした方法論のなかに調査者自身の戸惑や興奮までも注意深く入れ込んでいる点も実験的民族誌としての本著の価値を高めています。
  佐久間さんがこの著書で採用した文体は独特なもので,たんなる調査報告でも,自分の思いにそったエッセーでもありません。それは,フィールドの声,記憶の声,先行研究の成果,調査者の感情などの記述が混淆し,社会と人間に関する大きな謎の解明と場面ごとの小さな謎解きが錯綜する不思議な文体となっています。この文体は佐久間さん独自の世界を築く上で決定的な役割を果たしていると評価できます。
  以上,佐久間寛さんの業績は,文化人類学,アフリカ地域研究に対するのみならず,現代の人文・社会科学にとって大きな貢献を期待できるものです。選考委員会は全員一致で佐久間さんを第26回日本アフリカ学会研究奨励賞候補者として推薦します。

【受賞者】 佐藤宏樹

【受賞対象業績】  論文5篇

  1. Frugivory and Seed Dispersal by Brown Lemurs in a Malagasy Tropical Dry Forest, Biotropica, 44(4), 479-488, 2012.
  2. Diurnal Resting in Brown Lemurs in a Dry Deciduous Forest, Northwestern Madagascar: Implications for Seasonal Thermoregulation, Primates, 53(3), 255-263, 2012.
  3. 「キツネザルの昼と夜の行動の謎を解く」中川尚史・友永雅己・山極壽一編『日本のサル学のあした―霊長類研究という「人間学」の可能性』京都通信社,106-111頁,2012 年。
  4. Seasonal Fruiting and Seed Dispersal by the Brown Lemur in a Tropical Dry Forest, North-Western Madagascar, Journal of Tropical Ecology, 29(1), 61-69, 2013.
  5. Habitat Shifting by the Common Brown Lemur (Eulemur fulvus fulvus): A Response to Food Scarcity, Primates, 54(3), 229-235, 2013.

【講評】
  佐藤会員の今回の奨励賞対象業績は,マダガスカル島北西部における現地調査で得られたデータを元にしたチャイロキツネザルの採食行動,種子散布にはたす役割,チャイロキツネザルが主として散布者となる大きな種子をもつ植物との共進化,乾季に多く見られる昼寝行動の適応的意義,少果実期に一時的に遊動域をシフトするという行動の意義とそれを可能とする要因などについてのきわめてオリジナル性が高く国際的にも評価されている5篇の論文です。とくに英語論文の内容は,相互に連関があるものですが,第一論文では種子散布について他地域との比較による調査地域での特徴を詳細に示し,第二論文では従来の議論で明確ではなかった乾季と落葉後の昼休み行動について精密な観察結果による見解を説得的に論証してみせました。さらに第四論文では前二著を踏まえて種子散布と季節による採食可能性の議論を検討し, 第五論文では原猿に稀な居住移動について貴重な記録が考察されています。
  佐藤さんの研究が際だって優れている点は以下の2点にまとめることができます。第一は,チャイロキツネザルの採食行動が種子散布に貢献している実態を明快に解明した点です。佐藤さんの緻密に計画され通年にわたって収集された膨大なデータにもとづく分析は,これまでに明らかにされてこなかった多くの点に光を当て,高い学術的価値をもつものとして国際的にも評価が定まっています。とくに,果実が多く気温が低い雨期には主として昼間に行動し,果実が少なく昼間の気温が上がる乾期には昼は休んで薄暮と夜間の行動を増やすというように,チャイロキツネザルが季節によって昼間と夜間の行動様式を使い分けていることを実証的に示したことは重要な貢献です。佐藤さんの調査に基づくこれらの発見は,夜行性から昼行性への移行過程として動物の行動様式の変化をとらえるという,従来の動物行動学において唱えられてきた支配的な見解に対し,昼夜を積極的に使い分けるという対象種の独特の生態を明らかにすることで,別の理論的可能性を示唆しているといえます。佐藤さんの研究のなかで初めて明らかにされた重要な知見としてこの点はとくに高く評価できるものです。
  佐藤さんの卓越した研究の第二の特徴は,その方法論にあります。熱帯林の世界は,動物,植物,昆虫,微生物の相互作用(種間関係)の複雑な交錯のなかで生成される世界であるため,これに対して総合的アプローチの困難な領域だといえます。佐藤さんはこうした世界を対象にしてチャイロキツネザルと熱帯林の樹木との共生関係を通して,その世界の有機的相互依存性の一端を見事に描きだすことに成功したのでした。そのためには生態学,動物学,霊長類学,植物遺伝学から気象学までの幅広い知識と研究蓄積の検討が必須条件ですが,佐藤さんはこうした難関をクリアして熱帯林世界の総合的アプローチの端緒を切り開きつつあります。さらに特筆すべきは,世界的水準にある日本の霊長類学的研究でも希有な15ヶ月の長期継続調査というフィールドワークを実施し,動物生態学の調査法に新たな可能性を付け加えた点も佐藤さんの大きな貢献として指摘できます。
  以上,佐藤宏樹さんの業績は,霊長類学,動物生態学,アフリカ地域研究に対して国際的にみても多大の貢献を期待できるものです。選考委員会は全員一致で佐藤さんを第26回日本アフリカ学会研究奨励賞候補者として推薦します。

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