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◆論評:第27回(2015年度)

【受賞者】 網中昭世

【受賞対象業績】 『植民地支配と開発―モザンビークと南アフリカ金鉱業』山川出版社, 2014年。

【講評】
  本書は南部アフリカの鉱山労働に焦点を定め,取り上げられることの少なかったアフリカを対象としたポルトガル語資料を丹念にあたった結果,いくつも新たな知見をもたらした秀逸な作品である。モザンビークと南アフリカの関係を,その宗主国であるポルトガルとイギリスの力関係をも視野に入れることによって,アフリカとヨーロッパもふくめた国際関係史のなかに的確に位置づけることに成功し,鉱山労働をめぐるダイナミズムが,これまでにはないかたちで描きだされている。モザンビーク社会からの移民労働を,奴隷貿易,植民地支配および南部アフリカ諸国内における政治力学のなかで把握しようとする野心的な研究であり,南部アフリカ地域研究として,高く評価できる。
  また,歴史文書やインタビュー結果の丁寧な分析によって,モザンビークの村落社会の女性という,鉱山労働の文脈においてはもっとも周辺化されたローカルな動きも解明されている。こうしたバランスの良い目配りの結果,本書がアフリカの植民地統治や経済開発の問題にとどまらず,世界規模での資本主義経済の進展や「先発国」と「後発国」の間の関係にまで射程が広がった研究となっていることを評価したい。また,“歴史モノグラフ29”として主に歴史を扱っているものの,ポスト・アパルトヘイト状況にある今日の南部アフリカにおいて重要な課題となっている,労働移動と排外主義の問題に対しても多くの示唆を与えるものとなっている点も好ましい。全体的に,テンポよく書かれており,表現も簡潔で明瞭である。展開も論理的かつ説得的である。公文書館における豊富な文献渉猟に支えられた力作であり,手間をおしまない文献資料の渉猟ととともに,移民送り出し社会の事例をふまえた非常に手堅い手法による研究といえるだろう。モザンビークがポルトガル植民地であったという特異な条件によって築かれた支配体制,経済条件や開発のプロセスが明快な論の運びによって記述され,説得力をもっている。
  「植民地という体制が解体したあとに甦る植民地主義の本質とは何か」という課題設定に対しては一定程度答えているものと評価でき,この点に関しては今後も研究発展が期待できるだろう。ただし,移民送り出し社会の実態を扱った「第5章 移民送り出しとその社会的影響」に関しては,農民女性による酒の生産販売が富の平準化に結びついた証拠がまだ弱いため,今後その点を補強していく研究が望まれる。

【受賞者】 吉田早悠里

【受賞対象業績】 『誰が差別をつくるのか―エチオピアに生きるカファとマンジョの関係誌』春風社,2014年。

【講評】
  本書は,エチオピアにおける差別をめぐる多様なアクターの複雑な諸関係とそのダイナミズムを描き出した作品である。これまで記述が限られてきた狩猟採集民族マンジョの歴史や彼らの生活実態を丁寧に詳述したうえで,近隣に暮らすカファとの関係史を明らかにしている。地域社会の歴史の中で築かれてきた忌避関係が,今日的な意味での「差別」というフレイムで理解されるようになる過程を解明し,差別の構造の成り立ちを読み取ったところを高く評価したい。
  マンジョとカファの関係性に「差別」が導入される社会文化・政治的背景,差別解消政策をめぐる近年の州政府とローカルな現場の関係性が詳細に記述されており,地域研究(エチオピア)としても高く評価できる。豊富な事例分析が積み重ねられるとともに,地域を超えて広がる差別をめぐるネットワークが丁寧に読み解かれることで,説得力のある議論展開になっている。本書の内容の大半は,筆者がマンジョの人びとのなかに入って独自に入手したフィールドワークの成果であり,長い時間をかけて丹念に集積された貴重な情報を集成したものである。提示されている細部の資料が説得力を支えている。
  また,差別関係とみなせる関係にのみフォーカスを限るのではなく,地域社会の多様な関係をも解明し,そのなかで理解することによって,地域社会の変容過程全体も明らかにされている。カファとマンジョの関係における差別の問題を扱いながら,差別に関する善悪判断を慎重に避けつつ,差別という語彙でさえも言語的資源として人々に使われるものとして相対化している点は重要である。
  またカファとマンジョの二者間関係だけでなく,地方行政組織,エチオピア政府,国際機関やNGO,教会研究者など多様なアクター間の関係性に注目し,差別の生成をアクター間の権力関係と結びつけて論じた点も評価できる。長期にわたるフィールドワークをもとにした事例研究にとどまらず,人類の普遍的課題である差別問題・エスニシティに関する問題に接続しようとする意欲ある研究であり,今後の研究発展にも期待できる。
  本書のテーマが非常に大きなものだけに,現時点では「差別」に関連して示される人権,平等,権利などの概念理解と,それらに関して充分理論的な検討がなされたとはいえない点は指摘しておく必要があるだろう。粘り強いフィールドワークにより集積されたマンジョの物語と,「差別の生成」という大きく重たいテーマに対して,単純化されたフレイムでのぞむ危うさも存在する。しかしながら,エチオピアの一地域の事例に関する論考にとどめることなく,差別とはどのようなものであるか,という人類社会における大きな課題に挑戦した姿勢は高く評価したい。大部の書ではあるが,構成が明快で,読みやすい。本書全体の論理展開や,各章内部の構成も堅実である。

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