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◆論評:第29回(2017年度)

【受賞者】 伊藤千尋
【受賞対象業績】 『都市と農村を架ける―ザンビア農村社会の変容と人びとの流動性』新泉社, 2015年.

【講評】
  本書はザンビア農村部における多様な生計活動を分析し、それを通じて近隣の中小都市と農村との関係を考察してアフリカの都市―農村関係の理解を深める好著である。
  著者はまずザンビアにおける政治・経済史を押さえた上で、その変化にともなって農村と中小都市、大都市との間で人口が双方的に移動している可能性を指摘して、都市と農村の関係を再考する必要を指摘している。次に調査地である農村の成り立ちと、換金作物の耕作を含めた農業を概観している。
  それに続く、農村における非農業活動すなわち、俸給を得る職業、自営業、建築や耕作に関わる一時雇用を取り上げた部分は本書の特徴の一つであろう。気候の変動や季節変化によって、あるいは家族構成の変化によって必要とされる現金や食料を、これらの多様な生計活動を組み合わせることによって乗り切っていく人びとの姿が生き生きと描かれている。さらに非農業活動のうち商店、レストラン、バー、賃貸業などの「農村ビジネス」が盛んになってきていることを指摘し、その事業主が付近の都市の商人などとネットワークを作りながら都市へのビジネスにも参入しつつあることを明らかにしている。
  興隆する農村ビジネスは、労働力を必要とし農村における一時雇用を新たに生み出しており、ビジネスによる利益が再分配されている。ただし一時雇用とはいえ関係が固定化して、階層的な関係に変化していく可能性も指摘されている。農村ビジネスの事業主は、都市の需要を農村に伝え、農村に新たな収入源を仲介する役割も果たしている。農村ビジネスが都市と農村において果たす多面的な機能をバランスよく紹介しており、著者による観察の精密さと調査の的確さに感服した。
  次に付近の小都市への出稼ぎ労働者について、その社会的地位や学歴、出稼ぎの季節と期間、就く職業、離村と帰村の理由などが記述されている。都市への出稼ぎの一部は、農村における一時雇用と同列に考えられていると著者は指摘している。この指摘は重要で、農村における多様な生計活動が、小都市へも延長されたと考えることができる。
  出稼ぎ先の小都市の成り立ちと発展も概観されている。この小都市は、ダム湖のほとりにあるが政府による主だった開発は行われてこなかったという。しかし現在はダム湖における漁業、観光業が発達しそれに伴い大都市や農村からの人口流入が続いている。大都市の衛星都市としてではなく、様々なビジネスチャンスをとらえてダイナミックに発展していくさまは、農村ビジネスのダイナミズムと共通するように思われた。ただ、都市における生計活動に関する記述はその量や調査範囲が、農村に関するそれらに比べて乏しく調査が不足しているという印象が残る。
  終章において著者はこれまでに記載してきた内容を先行研究と比較検討しながら、抽象度を上げて議論している。すなわち農村における生計活動の多様化や農村ビジネスの興隆が農村経済におよぼす影響、農村における一時雇用と代替可能な出稼ぎ労働の位置付け、都市と農村の多様な関係性などに関する議論である。各議論の論理は明快でバランスが取れている。本書の7つの章が適切に配列されその内容が有機的に絡み合って、終章におけるスケールの大きな考察に至る筆力は敬服に値する。

【受賞者】 岡野英之
【受賞対象業績】 『アフリカの内戦と武装勢力―シエラレオネにみる人脈ネットワークの生成と変容』昭和堂, 2015年.

【講評】
  本書は国際的に大きなニュースとなったシエラレオネ内戦を紛争当事者へのインタビューも用いて詳細に記述し、紛争の展開を独自の視点で分析した意欲作である。
  複雑な内戦の経過を記述するにあたって、著者は様々な工夫を凝らしている。まずシエラレオネの地理的、民族的構成を概観し、内戦を理解するために必要な基礎知識として4つの項目を挙げている。すなわち、景観の特性、都市や村、町の規模、町や村の自給自足、経済のダイアモンドへの依存である。内戦の経過はそれぞれの国に固有の歴史的、社会的条件に当然左右されるのであるが、これらの基礎的な事項を踏まえることで、シエラレオネ内戦の経過を理解しやすく記述することができている。
  さらに、内戦の一方の当事者であり、「伝統的狩人」や「自警組織」とされることもあってその意味を明確に理解しづらかった「カマジョー」という名称の意味を、先行研究を批判的に検討し著者の定義したいくつかの用語を用いて整理し直した。内戦における武装集団はしばしば離合集散し、その規模も変化する。さらに同じ名称で呼ばれ続けていてもその内実が変わっている場合もあり、武装集団をあらわす名称を再定義したことはその実態を理解する上で大きな意義がある。
  このような準備を踏まえて著者が明らかにしようとしたのは、シエラレオネ内戦の展開はパトロン=クライアントネットワークで結ばれた武装勢力が、統合されより優位なパトロン=クライアントネットワークに再編されていくプロセスとして記述できるということである。著者がこのアプローチを選んだ理由の一つとして、武内進一による武力紛争発生に関する仮説があげられている。武内はパトロン=クライアントネットワークの分裂によって紛争が発生しやすくなることを指摘したのだが、著者はさらに内戦の進行をもパトロン=クライアントネットワークの再編、統合によって説明しようと試みている。野心的な挑戦であるといえよう。
  この挑戦は成果をもたらしている。内戦に参加したリーダーたちへの詳細なインタビューと、当時のニュース記事、また戦後に行われた裁判や委員会の記録とを丹念につき合わせ、内戦の進行につれて地域的なパトロン=クライアントネットワークが統合されてより大規模になっていく実態が描写されている。また大きなパトロン=クライアントネットワークを手に入れることが、権力闘争の目的であることも説得力を持って説明されている。
  内戦が終結すると、統合された優位なパトロン=クライアントネットワークからはメンバーが抜け出し、解体されていったという。パトロン=クライアントネットワークの分裂から紛争が始まるという武内の仮説を引き継ぎ、内戦の進行をこのネットワークの再編統合に注目した結果、重要な洞察がいくつか得られている。一例を挙げれば、国境を越えた人的ネットワークが、隣国リベリアでの内戦とシエラレオネ内戦の双方に関与しているという事実である。
  本書で特筆すべきは著者の率直で平明な文体である。一読して理解できる文体だが、学術書の文体としては軽いと受け取られるかもしれない。しかし著者の目的と方法が明確に記され、研究の結果も明瞭に書かれていることには好感が持てる。その一方で立論の弱点も目につきやすい。例えば、内戦の記述と考察の中心に、「パトロン=クライアントネットワークの統合」を据えたために、武装勢力の盛衰を多角的に記載していないという憾みが残る。
  様々な機会に恵まれたということもあるだろうが、それでも取り組むには困難なテーマを選び追究したエネルギーと、得られた結果を理解しやすく整理して明解な議論を提示した力量は高く評価できる。

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