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◆会長挨拶

島田周平(Shimada Shuhei)

本学会は昨年(2014年)、創立50周年を祝いました。川端前会長による「日本アフリカ学会の創立とアフリカ研究の揺籃」(「日本アフリカ学会創立50周年記念特別号」 『アフリカ研究』86号)をみると、日本におけるアフリカ研究草創期のすそ野の広さと本学会員が果たしてきた役割の大きさが分かります。

新しい50年のスタートを切った今日、過去の歴史を振り返りつつ今後の学会のあり方について少し立ち止まって考えてみるのも良いのではないかと思い、昨年来考えてきたことを4点ほど取り上げ今年度の挨拶に代えたいと思います。学会の将来に関する議論ではありますが、すぐにも取り組まなければならない事柄も多くあります。その様な議論の素材になれば幸いです。

1. 学会の国際化にむけた取り組み
現在、各大学で国際化の取り組みが盛んに行われています。外国人研究者との交流や海外での研究発表の機会は個人的にも増えていることと思います。このような個人ベースの海外との研究交流の拡大をどのように本学会の活動に反映させることができるか、現在問われていると思います。

今年度の総会で、外国人研究者の一般研究発表を条件付きながら認めることを決めました。しかしそれだけでは国際的に門戸を開いたとはとても言えません。外国人研究者が自由に参加できる学会にするためには、英語版ホームページの充実はもとより、会員の名簿管理、会費納入方法、機関誌の編集方法など、かなり根本的な改変が必要であることが国際交流会委員会の議論で明らかになりました。国際化の前になすべきことは非常に多いのです。

本学会員の中には世界を先導する研究をされている方も多くおられます。しかし同時に海外の研究に学ぶことが多い分野もあるでしょう。世界の研究者との交流の在り方もそれぞれの専門分野で異なります。多分野の専門家の集まりである本学会が、このような多様性ある国際化の進展をどのように組織的に活用しサポートできるのか多面的に検討する必要があると考えています。

2. アフリカとの交流拡大にむけた取り組み
昨年の50周年記念大会で、インド、中国、韓国のアフリカ学会員が参加した国際シンポジウムが開催され、アジアのアフリカ研究者間のネットワーク構築について検討しました。学会としてもアジア各国の学会との研究交流の拡大に努めることと決め、昨年度と今年度、韓国における大会に参加する会員に資金援助をしています。海外のアフリカ学会との連携のあり方については積極的な連携を求める意見が多く出されるようになっています。これは早急な対応が望まれる課題ですが、無方針で臨むわけにはいかない問題だろうと思います。

昨年海外の学会との連携について検討したときに出された重要な問題が1つあります。海外のアフリカ学会との連携強化に先立って、アフリカのアフリカ研究者との交流拡大にこそ力を尽くすべきだという意見です。不思議なことではないのですが、多くのアフリカ諸国ではアフリカ学会は存在しません。アフリカのアフリカ研究者は、文学や歴史、経済といった様々な専門分野の中で研究を行っています。彼らとの交流拡大を目指すことが我々にとってより喫緊の課題ではないかという指摘です。

現地研究者との交流拡大に関しては皆さんも最近新しい動きを感じておられることでしょう。科学研究費等を使ったアフリカ研究者の招聘に限界があるなか、2014年から「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ」が始まりました。これにより日本とアフリカの人的交流は急速に拡大しています。しかし、このイニシアティブで想定されている受入れ研修員は、民間人材、政府人材、教育人材とされ、このうち教育人材は「産業人材の育成を担う教官等の若手人材」と説明されています。経済学、政治学そして開発学の研究者は対象に入ると思いますが、本学会の会員が伝統的に強い繋がりをもってきた人文学関係のアフリカ研究者は主たるターゲットではないのです。これまで日本とアフリカの学術交流の中心的役割を担ってきたのは本学会の会員だったといって良いでしょう。しかしこのプログラムで来日する研修員は、我々が強い繋がりを持つアフリカ研究者のネットワークの外にある人が多いということです。

もちろんこのような新しい人的交流の拡大は、日本のアフリカ研究にとって一つの画期をなす出来事だといえます。多様な専門的背景を持つアフリカ人の来日は今後急速に増えると思われます。このような交流拡大の流れを本学会の活動にどのように結びつけていくのかを考える必要があると思います。もちろんその様な流れに影響されない超然とした在り方も含んでのことです。

3. 研究活動の活性化にむけた取り組み
今年の評議員会で、研究集会グループの設置を求める意見が出されました。専門学会では、研究集会グループが設置され研究活動が奨励されている学会が多くみられます。学問の発展には、共通の問題意識を持つ研究者の間で理論の精緻化に向けた議論が不可欠です。その意味から、研究集会グループの設置はすぐにも検討する必要があると考えます。

しかしこの時に地域学会として考えておくべきことが1点あります。それは専門を異にする多様な会員の集合体としての存在意義を失わないことの重要性です。本学会では1990年まで研究発表は1会場で行われました。発表数が多くなり1991年の国立民族学博物館での大会(第28回)から2会場体制に移行しました。この時も、研究発表を専門別に分けることには躊躇があり、会場を専門別に分けることはしなかったと記憶しています。本学会のもつ文理融合を尊ぶ気風を感じることができます。国内の他地域学会が政治経済学や歴史学などの人文・社会科学への特化傾向を強めるなかで、本学会が文理融合の気風を保っていることは、誇って良いことだと私は思います。

最近の新入会員の専門を見ると人文学や社会科学分野の人が多いようです。逆に自然科学系の研究者の入会が減少してきています。この傾向が続けば、近い将来本学会も他の地域学会と同様に人文・社会科学者中心の学会になるかもしれません。海外のアフリカ学会でも自然科学や理工系を専門とする会員は多くはありませんので、海外のアフリカ学会との交流もこの傾向を助長する作用をはたすかもしれません。

研究集会グループが、特定分野に偏った専門研究的傾向を強めることになると、欧米のアフリカ学会がすでにそうであるように、学術大会も専門ごとの分科会の集合ということになりかねません。この分化傾向は、学術研究の発展の結果であり当然と捉えるべきかもしれません。本学会も会員が多くなり研究の細分化が進めば、いずれはこの途をたどることになるでしょう。しかしその途は日本アフリカ学会がもつ長所の1つを失うことにつながるということを自覚しておく必要があります。研究集会グループの設置にあたっては、次に述べる学会のユニークネスを高める方向で考える事が肝要ではないかと考えます。

4. 学会のユニークネスをめぐる課題
前項でも述べましたが、地域学会の魅力の一つは、異なる学問的背景をもつ専門家たちが未分化の課題に取り組み、お互いの意見を交換することによって新しい学問領域を創成する可能性にあります。創立50周年記念学術大会(第51回学術大会:於京都大学)の公開講演会「アフリカ研究の50年」の講演録や、第50回学術大会(於東京大学)で会員歴50年を顕彰された諏訪兼位会員と日野舜也会員のインタビュー記録に接すると、アフリカ研究の草創期を支えた研究者の熱意や人的ネットワークの豊かさに驚かされます。学会草創期の人的ネットワークの豊富さにみる文理融合の気風は本学会の「遺産」として守っていく価値があるのではないでしょうか。

昨今、研究者とりわけ若手研究者を取り巻く研究環境は悪化しています。研究職の減少に加え、期限付き研究職の増加が若手研究者に落ち着きを失わせています。厳しさを増す競争の中、研究者は短期に成果を出すことを求められています。このことが、短期的成果が出にくい基礎的研究や分野横断的な新領域研究への挑戦意欲を削いでいるのではないかと危惧されています。幸いなことに、このような任期制の研究環境の中でも、アフリカ地域研究に取り組んでいる若手研究者の中には分野横断的な新領域研究へ参加する人が少なくありません。先にあげた文理融合的、総合的研究の伝統が残っていることを感じます。本学会は今後も引き続きこのような基礎的研究や新領域研究の推進・発表の場として貢献すべきではないかと考えています。

各分野で高い専門性をもつ研究者がアフリカを研究対象地域とする1点で緩やかに集まる集合体という性格は今後強まるだろうと思います。しかしたとえそうだとしても、本学会は新しい学問の創成や育成のためのインキュベータとしての役割を保ちつづける希望は失ってはならないと思います。それは、1会場時代を懐かしむ懐古趣味からではなく、積極的に「学問の母」たる地域学会として有りつづけたいという積極的意味からです。先にあげた研究集会グループも、このような新学問領域の創成につながる方向で発展するよう考えるべきではないかと考えています。

先の学術会議が終わった翌日(5月25日)、私は第52回アフリカ・デイのお祝いにアンゴラ大使館に招かれ出席しました。現在のアフリカ連合(AU)の前身であるアフリカ統一機構(OAU)の設立52周年を祝う式典です。そこで思ったのは、アフリカ諸国の連帯の強さです。在京のアフリカ諸国大使が一堂に会し、毎年1回「アフリカ万歳」を叫ぶ日を持っているのです。アフリカ大陸は、面積でいえば米国、中国、インド、ヨーロッパを合わせもった大きさがあります。その大陸にある国々が、内部に様々な問題を孕みながらも全体として連帯の意思を失っていないということは驚くべきことです。アフリカ大陸は多様性を包摂する大陸です。そこは文理融合の新領域研究が生まれるに相応しい「学問の母」なる大陸だといえないでしょうか。

(2015年7月8日、記)

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