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◆会長挨拶

太田至(Itaru Ohta)

2017年度から会長に就任しました太田至です。これから3年間、学会のさらなる発展のために努力する所存です。この機会に、最近にわたしが考えていることの一端をお伝えして、みなさまのご協力をお願したいと思います。

前会長の島田周平さんは、2015年7月の会長挨拶のなかで、今後の日本アフリカ学会のあり方に関して4点の提案をされています。(1)学会の国際化にむけた取り組み、(2)アフリカとの国際交流拡大にむけた取り組み、(3)研究活動の活性化にむけた取り組み、そして(4)学会のユニークネスをめぐる課題、の4点です。いずれも私たちが本腰をいれて検討すべき重要な課題ですが、ここでわたしがとりあげたいのは、島田さんが上記の(3)(4)のなかで言及している「文理融合的、総合的な研究」についてです。島田さんは、日本の(特定地域の名前を冠した)「地域学会」のなかでも、本学会が分野横断的な気風をつよく維持してきたことを指摘し、この伝統を大切な遺産として活用しつつ、新しい学問の創生を指向することの重要性を論じています。

最近にわたしは、「Future Earth」という世界規模の研究プロジェクトが動き出していることを知りました。これは、特に産業革命以降の人間活動の結果として、地球環境が限界的な状況に近づいているという認識のもとに、持続可能な未来を実現するためには、どのような知の転換が必要であるか、そして具体的な取り組みを実現するための体制はいかに構築できるかを構想するプロジェクトです。このプロジェクトは、2012年ごろから「国際科学会議(ICSU: International Council for Science)」や「国際社会科学評議会(ISSC: International Social Science Council)」といった科学者コミュニティを中心にして企画され、2015年から10年間の計画で実施されています。日本学術会議もこのプロジェクトの推進に積極的に関与することを表明し、2016年4月5日に「持続可能な地球社会の実現をめざして―Future Earth(フューチャー・アース)の推進―」という提言を公表しています(http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t226.pdf)。

このプロジェクトでは第一に、自然科学者と人文・社会科学者の学際的な研究の重要性が論じられています。人間の生存基盤を危うくする地球環境の変化と、人間の社会的・経済的な活動を包括的に理解するという、まさに文理の壁を越えた総合的な探究が必要とされています。このプロジェクトの第二の特徴は、科学者コミュニティが社会と協働する「超学際的(transdisciplinary)」なアプローチの必要性を強調している点です。ここでいう「社会」とは、国際機関や政府、地方自治体、産業界、メディア、市民社会などを指しており、科学と社会の連携と協働がいかに実現できるかが問われています。

みなさんもよくご存じのように、2015年9月の国連総会では「持続可能な開発目標(SDGs)」を中核とする「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。それまでに実施されてきた「ミレニアム開発目標(MDGs)」が途上国の発展・開発をターゲットにしていたのに対して、SDGsは、すべての国と地域における政策の実施と行動を呼びかけるものになっています。そして、上記の日本学術会議の提言ではFuture Earthプロジェクトを、特にSDGsの実行とその評価にむけた具体的な取り組みとして位置づけています。

このようにFuture EarthとSDGsは、いずれもエネルギーや資源、情報、富の流れを際限なく拡大してきたこと帰結に注意を促し、グローバルな地球環境や社会的・経済的な活動に焦点をあてています。しかし同時に人間は、具体的な「地域」で生活しています。特定の地域には、そこに特有な自然や生態系があり、人間はその特性を活かしながら多様な生業や社会、文化を生み出してきました。そして、地球環境問題やグローバルな社会・経済的な問題もまた、個々の地域に住む人びとの行為や価値観を捨象して考えることはできません。わたしたちに求められているのは、具体的な生活の現場というミクロな視点と、より大きな地域や地球を対象とするマクロな視点とを架橋する立場をいかにして構想してゆくかであると思います。

わたしたちの日本アフリカ学会には、島田さんが指摘されていたように、多様な専門分野の研究者・実践者が集まって、文理融合的、学際的・総合的な活動をしてきた伝統があります。そしていま、わたしたちに要請されているのは、こうした伝統を活用しつつ、Future EarthやSDGsといった世界的な動きに呼応する活動を推進することだと思います。アフリカ地域の未来、そして人類社会の未来の可能性を探究するためには、アフリカ研究の新しい伝統を創出(invent)することが必要であり、本学会には、そのための蓄積とポテンシャルが十分に備わっていると考えています。

(2017年6月24日、記)


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